アンドレ・シュヴァイガー|歩く自然の翻訳者
- ボロミエ 利美

- 7月10日
- 読了時間: 8分
更新日:7月31日
〜自然を読み解き、素材の可能性を見つけ、身につける人のためのかたちへと導く、静かな創造者。〜

素材に優劣をつけない作り手
三十余年にわたり、原石(ローストーン)からダイヤモンドまで、素材に宿る美しさを見極め、かたちにしてきた作り手がいる。スイス・ツークにアトリエを構える、アンドレ・シュヴァイガー氏である。
リサイクル素材も、天然素材も、シルバーも、パールも、ダイヤモンドも。彼にとって、素材に優劣はない。それぞれの個性を見つめ、本来の美しさを引き出していく。
その姿を見ていると、「これはものづくりなのだろうか。それとも、自然の声を代弁しているのだろうか」と、不思議な気持ちになった。
アンドレ・シュヴァイガー氏は、スイス・ツークで生まれ育ち、現在もこの地に暮らしながら制作を続けている。
4年間の職業訓練を終えた頃には、すでに21歳で父親となっていた。のちに4人の子どもの父となる彼にとって、デザインを専門的に学ぶために進学することは、現実的な選択肢ではなかった。
しかし、その状況が結果として、既存の教育や様式に縛られず、独学で自由に造形を探究する道を開いたのかもしれない。
彼には早くから、自分自身の感覚やイメージに基づいたジュエリーを作りたいという明確な思いがあった。当時、店のショーウィンドウに並ぶジュエリーを見ても、心から満足することができなかったという。
その違和感は、自ら新しいものを生み出すための原動力へと変わっていった。
職業訓練を終えると、ほどなくして独立し、自身のアトリエを設立。当初は安定した収入を得るため、ほかの金細工店の仕事も請け負っていたが、自分のアトリエで作品を生み出すことは、常に彼の活動の中心にあった。
アトリエで出会った、手仕事の温もり

アトリエには、大小さまざまな工具や、多彩な素材が整然と並んでいた。
その中でも私の目を引いたのは、人生のパートナーであるスザンネ・フリューラー氏との共同制作による、木のおもちゃだった。鉋で一つひとつ正確に削り出され、丁寧な手作業によって仕上げられている。
手仕事の温もりを感じるその佇まいは、幼い頃から自然素材のおもちゃに触れることの大切さが語られてきた、日本のものづくりの感覚をふと思い出させてくれた。
さらに、スチールは熱を加えることによって、色の表情を変えるという。その話を聞いた瞬間、小学校の理科の授業がよみがえった。
素材とは、ただの材料ではない。性質を知り、向き合い方を変えることで、まったく異なる美しさを見せてくれる存在なのだ。
彼は、素材と会話しているのかもしれない。そんなことさえ思わされた。
オーダーメイドの相談を受ける際にも、その姿勢は変わらない。アトリエには、依頼者が仕上がりを具体的にイメージしやすいよう、素材や、土台となるパーツが数多く用意されている。
ただ感性だけに頼って作品を生み出すのではなく、相手の希望を受け止め、素材の可能性を一緒に探っていく。
その丁寧な準備にも、長年ものづくりと向き合ってきた作り手としての誠実さが表れていた。
自然は、創作のための情報である

アンドレ氏にとって、自然とは、ただ眺めるものではない。
草の葉、松ぼっくり、骨、枝、そして古いピアノの鍵盤材までもが、彼の手にかかると、身につける人を美しく引き立てるジュエリーへと姿を変える。
また、人生のパートナーであるスザンネ・フリューラー氏、そして知人とともに制作したキャンドルホルダーにも、彼の素材へのまなざしと造形感覚が息づいている。
自然の中に存在する膨大な情報を受け取り、自分の内側で再構築し、新たなかたちへと変えていく。それこそが、彼にとっての創作であり、ジュエリー制作なのだ。
そうして生まれた作品には、素材がもともと持っていた記憶や表情が、静かに残されている。
創造性に必要なのは、静かな心

創造性について尋ねると、彼はこう語った。
「創造性に時間もプレッシャーもない。ただ、心が穏やかな状態であることが大切です」
彼の仕事の背景には、明確に言葉で定められた哲学があるわけではないという。
けれども、視覚から受け取った印象を、別のかたちで表現したいという強い欲求がある。
形、構造、素材、色。時には互いに対照的な要素さえも、調和の取れたひとつの全体へと組み合わせていく。
その言葉どおり、彼の作品から伝わってくるのは、無理に生み出された緊張感ではなく、素材と静かに対話するような穏やかな空気だ。
素材を目にした瞬間、いくつものアイデアが自然と湧き上がり、そのまま手が動き始める。
目にしたもの、感じたこと、心の内側に生まれたイメージが、少しずつ作品へと姿を変えていく。
どのような素材も、彼の手にかかれば新たな命を宿す。
まさに「歩く自然の翻訳者」と呼びたくなる存在だ。
素材の個性を映すジュエリー

木のネックレスを目にした瞬間、思わず黒い石と見間違えるほどの艶と輝きに、心を奪われた。
その正体は、木で作られた、鯉をモチーフにしたペンダントだった。ユニセックスなデザインでありながら、静かな華やかさと確かな存在感を放っている。
森を歩けば、草木や木の実、枝や石までもが、彼には新たな創作の種として映るのだろう。
そう想像させるほど、彼は自然の中に眠る可能性を見つけ出す感性を持っている。
そうして見いだされた素材は、彼の手によって、それぞれの個性を生かしたジュエリーへと生まれ変わるのである。
ジュエリーと、それを身につける人との出会い
アンドレ・シュヴァイガー氏のジュエリーには、見るたびに新たな発見をもたらす、細やかなディテールが息づいている。
顧客からは、クラシックジュエリーやアンティークジュエリーを思い起こさせる一方で、どこか未来的な印象もあると言われることが多いという。
その創作の源にあるのは、自然だ。
「自然は、私にとって偉大な師です。自然は、あらゆる形や質感を完璧なかたちで生み出します。私はその豊かさを借りながら、そこから新しい組み合わせを考え、創造することができます」
自然から受け取った形や質感を、自らの手と道具によって、新たな作品へと変えていく。
その時間は、彼に深い満足感をもたらす。制作に没頭すると、時間の感覚が消え、静かなフローの中へ入っていくという。
新しい作品を生み出すとき、彼が意識を向けるのは、特定の顧客層ではなく、ジュエリーそのものだ。
あらかじめ身につける人を限定するのではなく、作品と人とが、互いを見つける。
「身につける人が、自分のジュエリーを見つけるのです」
一方、オーダーメイドでは、最初から身につける人が創作の中心となる。
顧客のアイデアやイメージ、希望を丁寧に受け取り、自らの感性と素材の特性を重ね合わせながら、ひとつのかたちへと導いていく。
彼は、理想的な品質を保つためには、仕事にはそれぞれ適切な規模があると考えている。
アンドレ氏にとって、その規模とは、一人でアトリエを営み、自らの手で制作のすべてに関わることだ。
制作の始まりにあるのは、完成された設計図ではなく、ひとつのアイデアから生まれる感覚である。
その後の制作は流動的に進んでいくため、すべてをあらかじめ言葉にしたり、誰かに任せたりすることは難しい。自分自身が、そのプロセスの中へ深く入っていかなければならないのだ。
しかし、それは決して孤立した仕事ではない。
顧客の思いや希望を受け取り、作品へと反映させること。そして、制作の過程で、それぞれ異なる性質を持つ素材に耳を澄ませ、素材が示す方向を受け入れること。
彼にとっては、顧客と素材との対話もまた、制作を支えるひとつのチームワークなのだろう。
アンドレ・シュヴァイガー氏の作品を購入するには
アンドレ・シュヴァイガー氏の作品は、スイス・ツークにあるアトリエ兼ショールームで見ることができます。
自身のコレクションに加え、身につける人の希望やイメージに合わせたオーダーメイドジュエリーの相談にも対応しています。作品の購入やアトリエ訪問については、公式ウェブサイトまたは電話で直接お問い合わせください。

当メディアの配信開始を記念した「First Visit 25」プロジェクトの記念ギフトとして、編集部よりアンドレ・シュヴァイガー氏へ、日本製のメラミンボウルをお贈りしました。
Atelier und Showroom
André Schweiger Schmuck
Baarerstrasse 103
CH-6300 Zug
Switzerland
Tel: +41 41 760 12 62
Editor’s Note
取材の合間に、温かなコーヒーとクロワッサンをいただきました。
工具や素材に囲まれたアトリエで過ごす時間は、静かでありながら、どこか家庭的でもあった。作品について語るアンドレ氏の穏やかな言葉と、さりげない心遣い。そのどちらにも、長い年月をかけて手仕事と向き合ってきた人ならではの温もりが感じられました。
素材を見る目、ものを作る手、そして人を迎える姿勢。そのすべてが、彼のジュエリーと同じように、誠実で自然だったことがとても印象的でした。
著者について

ボロミエ利美
スイスを拠点にする、食、美容、ウェルビーイング、ライフスタイルを扱うバイリンガルメディア「Eat Well · Feel Well · Live Well」の創設者兼編集長です。美容食マイスター、アロマセラピーやハーブについて学んだ経験を生かし、レシピをはじめ、内側から美しさと健やかさを育むための実用的なアイデアを発信しています。




