これAIじゃなかったの? メルセデス・ベンツEQSに導入される“未来すぎるハンドル”の正体
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- 8月10日
- 読了時間: 5分
更新日:3 日前
著者:Eat Well · Feel Well · Live Well 編集部

一見すると、AIが描いた未来のクルマのようにも見えます。
メルセデス・ベンツが新型EQS向けに発表したステアリングホイールは、見慣れた円形ではなく、上部が大きく開いたコンパクトなフォルム。中央にはスリーポインテッド・スターが収まり、その姿はステアリングというより、どこかゲームのコントローラーを思わせます。
しかし、これは単なるコンセプトモデルのためのデザインではありません。
メルセデス・ベンツが2026年4月に発表した「Steer-by-Wire(ステア・バイ・ワイヤ)」によって実現する、新しいステアリングのかたちです。
同社によれば、Steer-by-Wireを搭載したEQSは、新型EQSの市場投入から数か月後に設定される予定。ドイツの自動車メーカーとして初めて、この技術を量産乗用車に導入することになります。
つまり、この未来的なステアリングは「いつか実現するかもしれないデザイン」ではなく、量産車への導入を前提として開発されたものなのです。

なぜ、ハンドルがこんな形になったのでしょうか?
ステア・バイ・ワイヤは、ドライバーがステアリングを動かした量をセンサーで検知し、その情報を電気信号として車輪側へ伝える操舵技術です。
従来のようにステアリングホイールと前輪を機械的に直接つなぐ構造とは異なります。
大きなポイントは、単にステアリングを軽く操作できるようになることではありません。
走行状況に応じてステアリングの反応を柔軟に調整できるため、駐車や狭い場所での取り回しでは操作量を抑えながら、高速走行時には安定した操舵特性を実現できます。
さらにメルセデス・ベンツによると、従来のステアリングのように大きく回し、途中で何度も手を持ち替える「持ち替え操作」も不要になるといいます。そこで初めて、この独特な形に意味が見えてきます。
円形である必要性が薄くなれば、ステアリングホイールそのもののデザインにも、これまで以上の自由が生まれるからです。
つまり、このステアリングは「未来的に見せるため」に形を変えたのではなく、ステアリングの仕組みが変わった結果として生まれたデザインともいえます。

ハンドルが小さくなると、車内も変わる
ステア・バイ・ワイヤがもたらす変化は、運転操作だけではありません。
メルセデス・ベンツは、よりフラットでコンパクトなステアリングホイールによって、ドライバー周辺の空間がより開放的になると説明しています。
上部のリムがなくなることでドライバーディスプレイが見やすくなり、乗り降りもしやすくなります。
ほんの少し形が変わっただけにも見えますが、運転席の印象は大きく異なります。
これまでステアリングホイールが占めていた視覚的な存在感が小さくなり、ディスプレイやインテリア全体がよりすっきりと見えるようになります。
実は、エアバッグまで新開発
しかし、ステアリングの上部をなくせば、それで完成というわけではありません。
もうひとつ、大きな課題がありました。
エアバッグです。
従来の閉じた形状のステアリングでは、リムがエアバッグ展開時の形状を支える役割の一部を担っていました。
ところが、Steer-by-Wire用に開発されたEQSのステアリングには、上部のリムがありません。
そのためメルセデス・ベンツは、この形状に合わせてエアバッグ構造そのものを新たに開発しました。
内部の支持構造や折り畳み方、固定ポイントなどを設計し直すことで、上部のリムがなくても、エアバッグが安定した位置と形状で展開するよう設計されています。
ステアリングホイールの形を変えるために、エアバッグまで作り直す。
この点を見ると、新しいステアリングが単なるデザイン変更ではないことがよく分かります。
電気信号で曲がる。では、安全性は?
ステアリングと車輪の間を電気信号でつなぐと聞けば、安全性が気になるところです。
メルセデス・ベンツによると、新しいSteer-by-Wireシステムは、テストベンチ、テストコース、一般道路での車両検証を含め、すでに100万kmを超えるテストを完了しています。
また、高精度センサーと高性能コントロールユニットに加え、基本的に2系統の信号経路を備える冗長化されたシステムを採用。
万が一システムが完全に機能しなくなるという極めてまれな状況でも、リアアクスルステアリングとESP®による車輪ごとの制動介入によって、車両の横方向の制御を維持できると説明しています。
なお、新型EQSがすべてSteer-by-Wireになるわけではありません。
メルセデス・ベンツはSteer-by-Wireをオプションとして設定し、従来方式の電動機械式ステアリングも引き続き用意するとしています。
40年目に変わる、「運転」のかたち
1886年、カール・ベンツが自動車の特許を取得してから140年。
メルセデス・ベンツは2026年を「140 years of innovation」と位置づけています。
その節目に登場するSteer-by-Wireは、新しい装備がひとつ増える、というだけの話ではなさそうです。
ステアリングは丸いもの。
曲がるときには、ハンドルを大きく回すもの。
長い間当たり前だった運転の動作や、クルマのインテリアそのものを変える可能性を持っています。
最初の写真だけを見れば、「これ、AIじゃなかったの?」と思ってしまうほど未来的です。
けれども、これは空想のために描かれたステアリングではありません。
メルセデス・ベンツが量産車への導入を進めている、次の「運転」のかたちです。
Editor’s Note
未来のクルマを描いたAI画像のように見える、新型EQSのステアリング。しかし、その形にはきちんとした理由がありました。ステア・バイ・ワイヤによって変わるのは、ハンドルの形だけではありません。運転の仕方、車内空間、そしてエアバッグの構造まで。見た目の驚きから、その背景にある技術をひも解きます。



